年収にこだわる男女は「ご縁が遠のく」その理由
えんまーるホームぺージ閲覧者の皆さん、今日は。ニッセイ基礎研究所生活研究部 人口動態シニアリサーチャーの天野 馨南子です。このえんまーるのコラムでは2回目の登場になります。
私がこのシリーズで皆さんにお伝えする情報はすべて、「人と人とのご縁に関する【数字】を思い込みでとらえて、大切な出会いの機会を失っていませんか?」という情報です。
というのも、私は結婚に関係する国の婚姻データを研究のメインの1つとして分析していますが、日本は結婚に関する数字について誤った思い込みをしてしまっている人が驚くほど多く、また、その思い込みをそのまま婚活に持ち込む人も少なからずいて、本当にびっくり・・・という状況だからです。
さて、今回は【数字】の中でも、お金の話をしましょう。私は仕事の関係で全国の自治体の結婚支援センターや結婚相談所、結婚応援団体の皆さんと情報交換をさせて頂いています。その中で、「そんなことをいっていたら婚活迷走するしかない」思い込みの1つに、年収があります。
さて、年収へのどういった思い込みが皆さんのパートナー探しを「妨害」するのか、ご紹介してきましょう。
●「平均年収の人がいい/平均年収もないから選ばれない」思い込み
平均年収というとよく引き合いに出されるのが「400万円くらい」という数字です。400万円以上の年収の人がいい、年収400万円になるまで結婚相手としてみてもらえないかも・・・などと思っている方はいませんか?
このような発言をする方は、この「400万円」の根拠をしっかり考えたことがあるでしょうか?
データを引き合いに出すなら、そのデータの根拠までしっかりわかった上で使わないと、「数字の理解できない、ただのイタイ人」になりかねません。
平均年収の話題で最もよく使われるのは、国税庁が毎年発表する平均給与だと思います。(そうだったのか!という人が多いかもしれない・・・ことが、すでに残念という話も)。
国税庁の「民間給与実態統計調査」(令和2年分)報告書がホームページで全文公開されていますので、皆さんと一緒にその内容を確認してみましょう。
給与所得者(いわゆる会社員)についてみると、
「1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与は 433 万円(対前年比 0.8%減)であり」
とあります。
「ほら!もう400万円でも足りないくらい!」と思う方もいそうです。
もう少しよく読みます。
「これを男女別にみると、男性 532 万円(同 1.4%減)、女性 293 万円(同 1.0% 減)となっている」
だそうです。
「なんと、男性だったら500万円以上がフツウなのね!」
という声も聞こえてきそうです。とても恐ろしいことです。
一体、何が恐ろしいのでしょうか?
さらにもっときちんと読み進めてみましょう。
「1年を通じて勤務した給与所得者の平均年齢は 46.8 歳(男性 46.8 歳、女性 46.7 歳)となっている」
もうおわかりになられたかと思いますが、「給与所得者」には入社したての新人さんから、定年間近の高齢者までのデータが全てはいっているのです。
しかも、日本は少子化が急速に進み、若い世代ほど人口が極端に少ない状況です。2020年でみると、40歳代人口が一番多く、20歳代人口は40歳代人口の66%しかいないのです。ですから、これらを全てまとめて平均を計算すると、最も人口が多い40歳代の給与所得者の年収水準に平均が近くなるのです。
それなのに「金太郎あめ」的な発想で、新人男性から初老の男性まで全員平均年収以上が当たり前だから出会えるはず!と思うことは、ちょっと恥ずかしい思い込みだといえるでしょう。
つまり、平均年収を目標に婚活する女性には、統計的には年齢も平均の47歳あたりの男性をめざしていただかなければ「普通」には存在しませんので、アラフィフ男性をおすすめします、としかいいようがありません。
ちなみにこの後に掲載している最終学歴別の年齢と平均年収のクロス表に答えがあるのですが、「年収500万以上で!」という女性は、(本人にそのつもりはなくとも)大卒の50歳以上の中高齢男性とのマッチングを目指します!という宣言をしているに等しいということになります。
また、400万円という全国水準の平均年収まで届かないことを理由に結婚を先延ばしにしている男性は、「アラフィフまで先延ばしにするのですか?その年齢まで結婚を先延ばしにしてしまうと、極めて成婚は難しくなってしまいますよ」としかいいようがありません。
●価値観の近い同年代との結婚を目指すなら
教育や法律が大きく変わる日本において、世代間価値観の違いがクローズアップされつつあります。Z世代、という言葉が2021年の流行語にノミネートされていましたが、これも、人口マジョリティである中高年バブル世代とは大きく価値観が異なる若い世代を区分して表現する言葉です。
実際、結婚も、初婚男女同士の結婚で最も多いのは同年齢結婚です。その次が僅差で男性1歳上、その次がこれまた僅差で女性1歳上です。男女どちらが上でも3歳差までのカップルが全体の7割を占めます。
急激に変わりつつある社会制度の中で、生れた年が近い男女ほど価値観が共有しやすいため、価値観婚の時代、ともいえるように思います。
さて、以前のコラム(結婚適齢期の「国民的大誤解」)で男女とも結婚年齢のピークは20代後半(女性26歳、男性27歳)とお伝えしました。初婚同士で結婚した男性の半数以上が29歳までの男性です(ちなみに32歳までが7割)。
そこで、このあたりの年齢の男女の収入はどれくらいかを学歴別にご紹介したいと思います。
下図は厚生労働省の「賃金構造基本調査」(令和2年)からの抜粋です。
目がチカチカするかもしれませんが、ライフデザイン設計に誤った思い込みを持たないための大切なデータをしっかり確認してみると、大卒男性の25歳から29歳の賃金は年間266万2千円です。ちなみ30代前半の大卒男性でも313万9千円です。
こう聞くと、田舎と東京では違うから、高収入そうな東京の男性が結局モテそう、といった意見を持つ方もいますが、そんな皆さんはたとえば、東京都港区赤坂の駐車場が1台月額7万円以上する、といった東京都の実態をご存じでしょうか?
地価が跳ね上がる繁華街がほぼなく、東京都特別区(23区)の住宅地エリアでリーズナブル、と言われる練馬区でも、月額1台2.5万円程度します。
東京都では賃貸物件で駐車場付きは当たり前ではなく、駐車場がない賃貸も非常に多く、また、あったとしてもそれなりの金額が必要となります。
そんな物価の違いの実態を知れば、東京都での給料が仮に田舎の2~3倍あったとしても、田舎暮らしと同様の生活水準を維持することは難しいかもしれない(年収有利にあるとはいえない)、ということがわかるでしょう。
結局、多くの男女が20代後半に結婚を済ませている実態と、その年齢帯での年収情報をしっかりとふまえると、例えばですが、20歳代大卒の女性が「年収200万円台の20歳代大卒男性と結婚すれば、私も200万円台の稼ぎなら夫婦で400万以上も稼げる!1人が400万円を稼ぐよりも税金も安い!」というような考え方をした方が、容易にカップリングが実現しやすいことがわかります。
また、以上はあくまでも平均年収ですから、実際はその年収より低い方が半数以上を占めています。にもかかわらず、平均年収が高くなる中年ではなく、平均年収が低い若い年齢で圧倒的に結婚しているのです。
年収は高くなくとも、夫婦2人ともがお互いに経済的に自立して生活ができる状態にあり、そして、そんな2人が一緒になるとかなり楽。
このような考え方は、今の社会の統計的実態に基づいており、実現可能性が高いだけでなく、何より、男性も女性もお互いに経済的負担感や大きな生活の変更を生じずにそばにいることができる、というメリットがあります。
2019年の婚姻統計では、29歳までの男性の31.5%が年上の女性と結婚しています。
「養ってくれる男性」
「俺の甲斐性が必要」
という考えこそが、令和時代の婚活の壁となっているのかもしれませんね。