COLUMN

2021/06/23
婚活

結婚適齢期の「国民的大誤解」

―データを正しく読めるかどうかであなたの人生は大きく変わってしまうかも―

 結婚してもしなくても自由な時代。

 それだけに、そもそも貴方が結婚したいかどうか、貴方が声に出さなければ誰もわからず、「希望があるなら紹介もできるんだけれど・・・」と声をひそめている人も少なくありません。

 そんな中で未婚の男女がついつい頼りがちなのが「ネット情報」。

 しかしこの「ネット情報」にはとんでもない「罠」が潜んでいるのです。今日はこのネット社会がもたらす罠についてのお話の第1回目になります。

【結婚適齢期の誤解からくる「人生の大切な選択の誤算」】

ネットニュースで見たんだけれど、また平均初婚年齢あがったよね~。2019年、男性は31.2歳、女性は29.6歳だって!

晩婚化だし、結婚なんて30歳くらいでするのが普通だしね、ってコメント欄に書いてあったよ!

男性なんて30歳過ぎてから結婚を考えても十分かもね?

 このような会話を聞いて、読者の皆さまはそこそこ納得してしまうのではないでしょうか?

 自己紹介が遅れましたが、私はシンクタンクで人口に関するデータを中心に調査研究をしているリサーチャーです。皆さまより少しだけ、データの解釈が得意です。

 データは知っているかどうかも大切ではあるのですが、たとえ知っていたとしても、それをきちんと解釈できるかどうか、が非常に重要になってきます。

 世の中にはデータを用いたデータ広告詐欺(お客様満足度80%!!とうたいつつ、実はその会社の社員、5人中4人の結果ということも・・・)も沢山あることから、データ解釈力がないと、データに踊らされてとんでもない結論に飛びついてしまうことがあるのです。

 このようなデータの読み間違いで、結婚に関して最も多いのが「平均初婚年齢」についてです。

 平均初婚年齢が男性31.2歳、女性29.6歳となどとみると、皆さまは脳内で「30歳あたりでの結婚が多いんだな」と思ってしまいがちです。そして、先ほどの例のように「30歳くらいで結婚を考える、結婚するのが『普通・トレンド』」と思い込んでしまう方が大半のようです。

 しかし、これは大間違いなのです。

 「平均」の意味をよくわからないまま事実誤認で思い込んでしまっている典型例といえます。これに対して、「え、どうして?!」という方のために、2019年の初婚同士のカップルの年齢別結婚発生状況を男女別に見てみることにしましょう。

【平均年齢と実際のピーク年齢になんと4歳の差】

 下のグラフは2019年に提出されたすべての婚姻届を分析した結果です。2019年に婚姻届が提出され、実際に結婚生活がスタートされたと国がみなしたカップルは33万9418組でした。

資料:厚生労働省「人口動態調査」より筆者作成
資料:厚生労働省「人口動態調査」より筆者作成

 上のグラフをみて驚く方がほとんどだと思います。

 初婚同士のカップルとして最も結婚が多い年齢は、実は男性27歳、女性26歳なのです。これは2018年と2019年でも変化がありません。また、男性27歳、女性26歳というピーク年齢前後に集中して結婚が発生していることもグラフでは示されています。

 平均初婚年齢と比べてみると男女ともに、なんと4歳も若い年齢が結婚ピーク年齢であるという、驚くべき結果となりました。

 そしてさらには、約34万件の結婚のうち、7割もの婚姻届が、男性32歳、女性30歳において提出し終えられているのです。

 つまり、平均初婚年齢あたりが結婚のピーク年齢と信じて婚活を始めたとすると、婚活の開始時には既に男女ともに7割の初婚同士の結婚が終了している、という状況下でのスタートを余儀なくされる、ということになるのです。

 平均初婚年齢と実際の結婚のピーク年齢に4歳もの差が生じてしまう。一体、どうしてこういうことが起こってしまうのでしょうか。

 それは、結婚が沢山発生するピーク年齢前後よりはるかに高齢のゾーンで、ごく少数ずつではあるものの平均値を大きく引き上げるような結婚が発生しているからです。現行法では男性18歳、女性16歳からしか結婚はできませんので、平均をピーク年齢より大きく下に引き下げるような低年齢婚は出現しません。しかし、その逆は発生可能ですし、発生確率的には0といっていいものの、現に発生しています。

 わかりやすく例えると、こんなケースと同じことになります。

ある町では年収200万円の男女がほとんどだとします。しかし、その町に2000万円を稼ぐような人が何人か、もしくは2億円を稼ぐような人が1人いただけで、町の平均年収は大幅に上昇してしまいます。

 では、平均初婚年齢の解釈を間違えてしまうことで、どのようなことが起こるでしょうか。

 先ほども説明しましたが、平均初婚年齢あたりになってパートナー探しを始めると、それはすでに7割の人の結婚が成立した後の婚活となります。ですので、当然ながら多くの異性に人気があるような激戦のお相手はほぼ「SOLD」マーク付きとなるだろうことをデータは示しています。

 人気の高スペックの相手を好む方ほど、「適当な相手に巡り合わない」(国の人口問題研究所の独身者調査でアラサー未婚男女が独身のままでいる理由として最も多い回答がこれです!)となるのは当たり前のことなのです・・・。

 また、別の言い方をすると、データは初婚男女が異性から「結婚相手として人気がある」年齢も示しているといえます。男性は27歳あたり、女性は26歳あたりが結婚相手として異性から最も人気がある時期となりますので、その時期を過ぎても今まで通り自分が人気案件であるかのようにふるまってしまうと益々選ばれにくくなるといえるのです。

【発生確率を理解できれば「出逢い」は変わる】

 そんなことを言われても・・・もう私は35歳(初婚同士カップルの男性の8割、女性の9割の結婚届が提出済みの年齢)なのに、という男女もいると思います。

 でも、上のグラフは「結婚のピーク年齢を過ぎた独身男女が結婚に抱きやすい誤解」がセットになっている結果としてのグラフ、ともいえます。

 ピーク年齢後の棒グラフの山の右側が、非常に急角度な右肩下がりになっています。毎年、結婚件数が急激に減っていくということを表しています。これは「それはそうでしょ、残っている男女が少ないのだから」でしょうか。実はそうでもありません。

 年齢上昇とともに、ある強いこだわりの意識が壁となって結婚を難しくしてしまう傾向が、別の調査結果から指摘されています。

 例えば男性の場合、マッチングアプリのPairs(ペアーズ)を運営する企業と私の研究所との共同調査(2020年8月実施)で「いくつになっても理想の結婚相手に20代後半の女性を挙げる(チャンスは結構あるはずと考えている)」という結果がでています。28歳の女性にアプローチするのに、同年代である28歳の男性と、10歳も年上の38歳の男性ではあまりにも女性からの「選ばれ力」が異なります。しかし結婚相談所でも、どんなに難しいと最初にお話ししても、30代ならまだしも、40代以上の多くの男性が20代女性にアプローチすると伺っています。

 そもそも20代人口は40代人口の67%しかいません。その上、20代後半女性には年下男性も含め、あらゆる世代の男性から手が挙がります(年上妻の割合:2019年24.2%=約4組に1組)。初婚同士カップルの平均年齢差は1.7歳で、男女どちらが上でも3歳差までの結婚が69%を占めています。

 婚姻統計データを分析してきた私からすれば、「まずは選択肢から年齢条件を取り払う」ことがピークを過ぎた未婚男性の結婚の成功の鍵なのに・・・と思います。相手の女性の気持ちに立てば、年の離れたパートナーと一緒になるということは、育児に加えてパートナーの病気、親の介護など、家庭内の多くの負担を年齢の若い女性側が負わなくてはならない可能性が高くなる、といえます。

 逆に女性の場合ですが、パッと見た人気案件の人はもういない、くらいに腹をくくり、「足りないものは私がカバー、または変えていくようにすればいい!」といった発想の転換が欲しいところです。アラフォーになって相談所に来た女性が「高校の時に私の家庭教師をしていた大学生」の話をついしてしまう、その女性の中で高校生のまま、パートナーへの理想が固定化してしまったかのようなケースも少なからずあると伺います。

 髪型が気に入らない、服装があか抜けない、のであれば、貴方がアドバイスして、それで変えてきてくれる男性を選ぶ、という発想ができるかどうかは大切だと思います。

 私自身も結婚ピーク年齢を過ぎて結婚しましたが、いずれにしても大人の結婚とは

「欲しいギフトを相手から受け取る」精神ではなく、

「今は互いに持たないギフトを2人で作り上げていく」精神のもとに舞い降りるものではないか、そんな風に感じています。

この記事を書いた人

天野 馨南子

㈱ニッセイ基礎研究所
生活研究部 人口動態シニアリサーチャー
天野 馨南子(あまの かなこ)

ニッセイ基礎研究所 人口動態シニアリサーチャー。1児の母。
自らの晩婚晩産、産後の闘病、介護歴12年、不妊治療の経験からエビデンスに基づくライフデザインの重要性を説く。

東京大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。
1995年日本生命保険相互会社入社、1999年から同社シンクタンクに出向。
専門分野は人口動態に関する諸問題(特に少子化対策、一極集中、女性活躍推)。

内閣府少子化対策交付金事業有識者委員ならびに少子化対策大綱PDCA検討会構成員、男女共同参画局研究会構成員。
地方自治体・法人会等の人口関連施策アドバイザーを務める。
エビデンスに基づく講演実績多数。著書に『データで読み解く「生涯独身」社会』(宝島社新書)、『Before/With コロナに生きる社会を見つめる』(ロギカ書房)等。

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